≪あらすじ≫
エルトン・エーカーの絵画『待ち人の泉』を手掛かりに冒険へと旅出った考古学者のオリヴィアと「時紡ぎ」のノラ。森の奥深く、とある湖畔へとたどり着いたふたりは鱗をもつ赫い瞳の少女、リューネと出会う。
少女は唄う。忘れられた古い唄を。
―――凍りついた歴史が今、動き出す。あたたかい、炎の音色につつまれて。
≪登場人物≫
オリヴィア:冒険家、考古学者の女性。※詳細はあとがき下部にも掲載
ノラ :「時紡ぎ」の少年。
リューネ :「待ち人の泉」に佇む少女。
ゴルドー :今は亡きリューネシアの騎士、ドル・ゴルドー。男性。
エーカー :長命なエルフで有名な画家。リューネシアでは城の魔法師だった
リ・ネシア:リューネシアの守護を司る龍。雌龍
※演者の性別や兼役、演出、言い回しの変更自由。 ※タイトルコールを読む方はどなたでも大丈夫です。
≪利用規約≫
本ページに記載されている内容は、当シナリオで劇を上演する目的で収益が発生しない方法であれば自由にお使いいただけます。その他の方法で利用される場合は、作者:渡良セシボンまで事前にご一報下さい。
連絡先:
Twitter @wataracestsibon
Mail watarasebon@gmail.com
≪ノベルニア・プロジェクトについて≫
当作品は、ライターサークル「のべるぶ」の企画「ノベルニア リューネシアサーガ」に参加しています。
他の作家さんも共通の世界観で様々な物語を執筆されていますので、ページ最下部のリンクからぜひ覗いていって下さい。
≪ゴルドーの真実 について≫
「堕落騎士ゴルドー」の逸話は、かつてリューネシア辺境国の下級貴族であったゴルドー家の四男、ドル・ゴルドーが主君を裏切り、城の兵を一夜にして皆殺しにしたことで知られており、その事件はエルトン・エーカーの絵画「孤軍の叫び」とともに人々に記憶されています。
ドル・ゴルドーは、戦働きを認められ、時の姫に召し抱えられるという類稀なる栄誉を賜るほどの騎士でした。「ゴルドーを疑われる」という言葉は、優れた才能を持ちながら主君を裏切るような忠誠心の無い騎士を指す侮蔑の言葉として使われています。
"エーカーに創作在らず"とは数々の作品が持つ臨場感と表現力の高さを指した言葉ではありますが、「孤軍の叫び」もその一つで、作品の解釈については学者の間で大いに議論されています。
城門の向こう側で屍の山を築く騎士の姿は、一見すると城内を攻める反逆者を外から見て描いたもののように見えるが、もしそれが、城の中から見た景色だとすれば、それはゴルドーが単騎にて城を守る、騎士として理想の姿を体現しているにほかならない。エーカーが城内からゴルドーの行動を観察していたのか、反逆者の一員として行動していたのか、その真相は未だ明らかではありません。
≪プロローグ≫
≪本編≫
―――待ち人の泉―――
リューネ :そんな…おかあさん、かえってこないの?…うう…うぐっ、うぐっ
オリヴィア:ノラぁ〜!あんた女の子泣かしてんじゃないわよっ!
ノラ :だって、時紡ぎだもの…!リューネシアが滅びた時、この子の母…ノベルニア唯一にして最強の龍、「ドルドラゴ=リ・ネシア」は、死んだ。それは今、確かに見てきた。この子…「リューネ」の「糸」を手繰って。そこに嘘はつけない。
オリヴィア:だとしても!女の子を泣かすのはだめ!
リューネ :わたし…おかあさんに会いたい…会いたいよ〜!ぐず・・・ぐずっ・・・
オリヴィア:ノラ、リューネをお母さんに会わせてあげて。
ノラ :リヴィ、だめだよ!会ってどうするの。もしも歴史が変わってしまえば、「上」には必ずバレる。母親に会ってこの子が黙っていられるなんて…僕は思わない。そもそもドラゴンなんてものは干渉していい存在じゃないんだ。その力が歴史に与える影響は尋常じゃない。そうしたら僕らの旅は…
オリヴィア:大丈夫よ。ノラは「時紡ぎ」の力で、何度も私の命を救ってくれたじゃない。そうじゃなかったら私、とっくに死んでた。でも、ノラの上司はなんにも言ってきてないんでしょう?
ノラ :それは…きっとたまたまだ。リヴィが魔獣にやられたり、毒沼に顔から突っ込んだりしたときはヒヤヒヤしたよ。なんでこんなのが「冒険家」なのか。
オリヴィア:ノラは、私のために「禁忌」を何度も犯してくれた。もう我儘言わないから。これで最後よ。この子を、リューネをお母さんに会わせてあげて。
ノラ :あのねリヴィ、僕の話し聞いてた!?こればっかりは駄目なんだって!
オリヴィア:ノラはこの子に会いたくてここに来たんじゃないの。放っておけるの。リューネを。
ノラ :そ、それは……
―――[回想]野ベルベリーの丘―――
草原に屈み込み、赤い果実をもいでいる少年と、細身の学者然とした、しかし背中に大きなカバンを背負った女性冒険家がひとり。
ノラ :お姉さん、ノベルニア・テアトルって知ってる?
ノラ :誰でも野ベルベリーを持っていったら観ることが出来るんだって…そんなの冗談だと思っていたら、ほんとうだった。
ノラ :『ヴァネッサ=リード』っていう作家の戯曲でね。『ゴルドー』っていう騎士の物語なんだけど、森に囲われたきれいな湖が出てくるんだ―――
ノラ :僕はいつかほんとうの『待ち人の泉』を見てみたい。
ノラ :そこにはきっと誰かが待っている。会いに行きたいなぁ、その人に―――
オリヴィア:ねぇ、ノラ。野ベルベリーの花言葉って知ってる?
オリヴィア:【冒険】、だよ
オリヴィア:一緒に行こう、ノラ。この出会いは、きっと運命だ―――
◆
◆
◆
ノベルニア・テアトル リューネシア・サーガ
「喪失の唄」
◆
◆
◆
―――待ち人の泉―――
ノラ :(そう。あれが僕とリヴィの出会いだった。リヴィは、退屈な仕事に飽き飽きした僕をほんとうの冒険に連れ出してくれたんだ。)
ノラ :〜〜わかった!わかったから!ここまで来たら、やってやるさ!
ノラ :(…僕の「時紡ぎ」の力は、時間を「糸」のように認識できる。自分が触れた「糸」を手繰って"エポック"とよばれる出来事を紐解き、それを束ねて「"時"を紡ぐ」のが僕の仕事…なんだけど。)
―――[回想]アデム平原―――
オリヴィア:ノラ!危ない!ここは私に任せて!
ノラ :っ!!リヴィ、大丈夫?
テディベルの突進にひるむオリヴィア。
オリヴィア:……やばい。私死んだ
オリヴィア:〜〜〜ピギャ〜!!!!
ノラ :リヴィ!?
ノラ :え?弱すぎない?っていやいや!死んじゃうよ!
ノラ :馬鹿なの!?
ノラ :……なんでだよ、弱いくせに僕を庇うなんて!
ノラ :ええ〜い!なんとかなれ!
少年が手をかざすと、オリヴィアの身体から銀色の糸のようなものが現れ、やがてそれは少年の手のひらに吸い込まれていく。
ノラ :≪今一度紡がれよ≫(リ・フィレール)・・・
ノラ :≪彼の糸≫(デュ・フィル)!!
時間が巻き戻る…否、「時」の糸が紡ぎ直される。
オリヴィア:あ、あれ、私今テディベルのツメで胸を貫かれて…わわっ!
ノラ :避けるんだリヴィ!
ノラの掛け声に合わせて攻撃を回避。次いで腰に下げた短剣を引き抜き、テディベルへと振りかざす。
オリヴィア:まかせなさいよ!うおおおらぁ!!!
ドスン…胸を貫かれたテディベルは音を立てて地に倒れ伏した。
ノラ :リヴィ、無事だろうね…?
オリヴィア:ええ、ピンピンしてるわよ。でも…なんだか私、とんでもない借りを作っちゃったみたいね。ノラ。
ノラ :いや〜?な、なんのことかな〜?とにかく、リヴィが無事で何よりだよ!
ノラ :さぁ!今倒したテディベルを捌いて、食事にしようよ〜!あは、あははは〜!!
オリヴィア:あんた、捌けないでしょ?肉。
ノラ :う、うん…お願い!リヴィ!
オリヴィア:仕方ないわね〜、聞かないでおいてあげる。ごはんにしましょー。
捌いたテディベルの肉を焼き、かぶりつく二人。
ノラ :もぐもぐ…どうしてゴルドーは、ひとりになるまで戦ったんだろう?
オリヴィア:さてね。…きっとこの先にあるさ。その答えが。
ノラ :(オリヴィアのおじいさんが持っていたという、エルトン・エーカーの絵。そこには、僕が憧れていた「待ち人の泉」が描かれていた。僕はそれにすぐ触りたかったけど、オリヴィアは「おすすめしない。それは私の冒険じゃない」って言ってた。)
ノラ :(思えば、僕は演劇ってものに興味があって、ノベルニア・テアトルにはじめて足を運んだ。わざわざ野ベルベリーをあつめて、劇場に行って、また野ベルベリーをあつめに行って、そうしてリヴィと出会って、待ち人の泉まで来た。最初からゴルドーの真実が知りたいなら、こんな事せずとも知ることは出来た筈なんだ。「時紡ぎ」の力で、少しずつ時間の糸を手繰っていけば、いつかはゴルドーの真実にだって、辿り着けた。)
ノラ :これが、リヴィの言っていた「冒険」なんだね。
オリヴィア:そう?冒険できてる?ならよかった。おいしい食事は旅を豊かにするからねぇ。あと忘れちゃいけないのが……
ノラ :野ベルベリー。
オリヴィア:そう。冒険家はいつだって手元に生えてる野ベルベリーが友達なのさ。
オリヴィア:これは…ノベルクイムシが葉を食べてる。こういうのはだいだいアタリだ。
ノラ :こっちに生えてるのがおいしそう。
オリヴィア:はは、じゃあ食べてみ。
ぺちゃ、と舌先で味をたしかめるノラ。
ノラ :う〜ん、これはハズレだったみたい。
オリヴィア:そうそう。それが「冒険」だよ。
―――待ち人の泉―――
ノラ :(だったら……!)
ノラ :いいかい、リューネ。
リューネ :な、に……?ぐずんっ
ノラ :これから、きみのお母さんに会わせてあげる。長い時間は居れないかもしれないけど……暴れたり、誰かを傷つけたりしないって、約束できるかい?
リューネ :……で、きるっ…あいたい、お母さんにっ
ノラ :………わかった。じゃあ、手を出して。
少女の顔に似つかない、鱗と鉤爪のついた腕に手をかざす。やがてそれは強い光を発し―――
ノラ :(これが、僕の「冒険」なんだ。)
ノラ :・・・いくよ
少女の体から浮き上がるように、一本の糸が宙を漂う。
ノラ :≪今一度紡がれよ≫(リ・フィレール)・・・
ノラ :≪彼の糸≫ (デュ・フィル)ッ!!!
―――リューネシア滅亡の日:城門―――
ノラ :(ここは・・・)
城壁から身を乗り出すエルフが、城門の外に立つ一人の騎士へと声をかける。
エーカー :ゴルドー!!!!
ゴルドー :すま…ない、エーカー。俺は…護らなくちゃいけない。
エーカー :何故だ!!もう姫も!戦友(とも)も!!国さえも!!何も!!何も残っていないというのに!!何故そうまでして己の身を滅ぼそうとする!!
ゴルドー :はっは、だから、「すまない」と言っているだろう。
エーカー :説明になってない!まだ間に合う!!
エーカー :どうせ死ぬなら何故!何のためにここへ戻って来た!!!!!!!
ゴルドー :やるべきことが…まだ残っている。奴らが欲したもの、俺が…そしてこの龍がただひとつ護りたかったもの…それを護りぬく。
エーカー :護りたかったもの……?
ゴルドー :もう時間がない。始めてくれ、リ・ネシア。
そう口にすると、騎士の傍らに鎮座する巨大な龍が、こくり、と頷いた。
エーカー :私は…私はどうすればいいのだ!!何も救えず、ただ見ていることしかできない私は……!
リ・ネシア:……騎士ゴルドー。これより我が身に残る凡てを貴殿に授ける。古き唄は、そなたの生を龍の道へと誘うだろう。
ゴルドー :………我が名は、ドル・ゴルドー
リ・ネシア:血の盟約により、ドル・ドラゴ・リ・ネシアが名を与える。…
ゴルドー :血の盟約の元、我、この身は龍と共にあり。
ゴルドー :我が名は、ドル・ドラゴルド。
ゴルドー :この身を喰らい、現れ給え!!龍の力!!!!
ゴルドー :……あガッ、ンガぁあッ、うガァあああああああああああ!!!!
エーカー :…っ!!
エーカー :ゴルドオオオオオオオオオ!!!!
リ・ネシア:後は任せたぞ、ドラゴルド。その身を捧げ…この子を護ってくれ
ゴルドー :言われなくても、やってやる。
ゴルドー :―――我が名は竜騎士、ドル・ドラゴルド。
ゴルドー :欲に目が眩んだ愚かなる強者どもよ。
ゴルドー :我が一撃に沈むがいい―――
ゴルドー :……≪神龍の威光≫ドラゴニック=ベルフレアー!!!!!!!!!
︙
―――激戦の果て。―――
︙
足取りも覚束ず、剣を地面に突き立て、息を切らす龍騎士。
ゴルドー :あ、はぁ、はぁ―――っ
リ・ネシア:う…っ
エーカー :おい…!!ドラゴン、どうしたんだ!
リ・ネシア:騒ぐな、エルフの若造。
ゴルドー :…ッ
ゴルドー :…―――リ・ネシア。あとどれくらい保つ―――
リ・ネシア:―――あと3ユース。
リ・ネシア:それを超えればお前の身体が保たない。私もそこまでだ。
エーカー :おい…
エーカー :何…言ってるんだ…?
エーカー :…は?それでゴルドーが・・・死ぬ?
エーカー :馬鹿なこと言うなよ!!!
ゴルドー :たったの3ユース…これが俺の限界なのか、、、フッ
勢いよく剣を引き抜き、咆哮する。
ゴルドー :・・・ゥオおおおおおおおおおおおおア!!!!!!!!!!
ゴルドー :―――!!!
…が、それは虚勢に過ぎない。
ゴルドー :、カハッ―――っ
ゴルドー :はぁ―――、はぁ―――っ
ゴルドー :エーカー。もう俺に加護を使うな
エーカー :もうやめろ!!!やめてくれ!!!!
エーカー :誰かっっ、助けて下さい…!!もう祈る先なんて無いけどっ、こんなの…こんなのあんまりだ・・・!
城門から少し離れた木立の陰に3人は立ち、その光景を見つめていた。
リューネ :…おかあさんが、死んじゃう
リューネ :ドラゴルド―――ってひとも
オリヴィア:リューネ…
ノラ :(…これが…ゴルドーの最期なのか…?龍は…?「孤軍の叫び」まで…あとおそらく…1ユース…)
ゴルドー :だぁ、はぁ、はぁ、もう…解ける…龍化…が…
リ・ネシア:……くっ
リューネ :…おもいだした。
オリヴィア:思い出したって、何を思い出したの?リューネ
リューネ :うた…ずっと思い出せなかった、うた。
リューネ :おかあさん、おかあさんっ!!
走り出そうとするリューネの腕をつかまえるノラ。
ノラ :・・・約束したよね、リューネ。
オリヴィア:…そう、よね。
リューネ :―――うん
リューネ :・・・ごめんね。ノラ
リューネ :・・・もう、、、でちゃう
ノラ & リヴィ :――――――え??
リューネ :すぅぅぅぅぅぅ―――
少女はその小さな体に大量の空気を吸い込み―――
リューネ : ≪我が子のための子守唄≫ (おかあさんのうた )
リューネ :はぁぁぁぁぁぁ―――――――っ
業火を、吐き出した。
エーカー :うああああああああ―――!・・・って熱っ…くない???
エーカー :こんなにあたり一面、燃え広がっているのに!
リ・ネシア:この”唄”は……!どうしたの、リューネ・・・まだ卵なのに、どうして―――?
ゴルドー :リ・ネシア。もう3ユース経ったと・・・思うがッ
ゴルドー :まだ働かせる気か?―――はぁっ、はぁっ
リ・ネシア:・・・私の母のようだ。あたたかくて、なつかしい唄・・・
リ・ネシア:ドラゴルド・・・私はまだくたばれないらしい。だからこの子を・・・リューネを護り抜いて・・・
エーカー :リューネ?それが・・・おまえの護りたかったもの・・・子供が居たのか、ドラゴン。
龍が自らを見下ろし、呟く。
リ・ネシア:ああ・・・ここに。
エーカー :―――ずっと動かずに居たのは、そういう事だったんだな。・・・このあたたかい炎は、光神ベル様の慈悲なのか、、、不思議な感覚だ
リ・ネシア:これは”唄”だ。龍に破壊の力は無い。できるのは唄い、祝福を与えることのみ。
リ・ネシア:私にはわかる。これは母の唄ではない。この子が・・・リューネが私達に唄ってくれているのだ。
リ・ネシア:―――ありがとう、リューネ。愛しい我が子―――
ゴルドー :…っ。気張れよ、リ・ネシア。俺たちの子を、護り抜く・・・ここが正念場だ・・・!!
エーカー :ゴルドォォ!!
ゴルドー :エーカー!!!!!!!
エーカー :…っ
ゴルドー :お前は…絵が好きだったろ
エーカー :今する話か!?
エーカー :いや…私に絵の才能なんて…ない
ゴルドー :関係ない。
ゴルドー :―――俺のこの姿を、遺してくれ。見た者総てが震え上がるような、恐ろしくも最強の騎士を。
ゴルドー :ここに護るべきものなど無かった。堕落した騎士は己の力に酔いしれ、それを誇示するために敵も味方も皆殺しにした…とな。
ゴルドー :これは…リューネを護るためには必要なことなんだ
エーカー :そんな…
ゴルドー :…安心しろよ。今から城も瓦礫の山にしてやる。描きやすいようにな。
エーカー :そういう、ことじゃない
ゴルドー :お前ならできる。時間はたっぷりあるのだから。…頼む。俺の親友、エルトン・エーカー。
ゴルドー :…じゃあな、俺の子を、頼んだ.
エーカー :っ、っ、ゴ…ゴルドォォォォォ!!!!!!!!!!
ゴルドー :これで・・・終わりだ
ゴルドー :いくぞ、リ・ネシア
リ・ネシア:ああ・・・愛している。私の一(いち)の騎士。
エーカー :っ………!
エーカー :任せろ!…っ、必ず、私が!!!護るッ…!!!命に代えてもッ!!!
エーカー :≪≪光神の加護≫≫(ヴェール=ミスティクァ)!!!!!!
我が子の周囲に強固な結界が展開されたのを確認すると、彼は小さく、口を開いた。
ゴルドー :………。
ゴルドー :安らかに眠れ―――
ゴルドー :―――≪≪神龍の炎唄≫≫(ドラゴニック=ベルスーズ)
エーカー :(それは、とても静かな「叫び」だった。まるで世界が穏やかに寝かしつけられているような―――しかしその静けさとは裏腹に、かつての城も、迫りくる敵も、大地でさえも。凡てが炎に抱かれ、消えていったんだ。)
リューネ :はぁっ、はぁっ、おかあさん、おかぁさんっ、―――っ
ノラ :こんなことが、、、嘘だ
オリヴィア:…リューネ。リューネの唄は、きっとおかあさんに・・・ううん、おとうさんにも、届いているよ。大丈夫。―――よくやったね…
リューネ :う…うぐっ…
ノラ :そんな…これじゃ「史実どおり」だ
ノラ :…リューネがあそこで「唄」を唄わなかったら…ここには何も残っていなかったんだ…人も、龍も、エルフも、何もかも
ノラ :歴史は…紡がれなかった筈なんだ
ノラ :「これで史実どおり」
ノラ :「時は紡がれた」
ノラ :ぜんぶ…!ぜんぶ!!「上」の思惑通りだったなんて…!!!
オリヴィア:どうしたの、ノラ!!!
リューネ :ノラ、だいじょうぶ・・・?
ノラ :・・・・・・帰ろう。
―――待ち人の泉―――
横たわり、未だ瞑目したままのノラ、オリヴィア、リューネ。
そこに、ひとりのエルフが立ち寄った。
エーカー :…すまなかった、ゴルドー
エーカー :私の我儘なんだ。誰が気づかなくてもいい、お前の勇姿を…描かないわけにはいかなかった。
エーカー :私は、ないものは描けない。やはり才能なんて・・・無かったんだ。随分時間がかかってしまったが―――「孤軍の叫び」は、私の傑作だよ。
エーカー :そして。この場所…「待ち人の泉」は…お前が救ったもののひとつだ。ここにお前が命を賭して護ったものがある…それをどうしても、形にしておきたかったんだ。懐かしいな。私の絵が、こんな冒険家の女性の手に渡っていたなんてね。
エーカー :…元気に育っているようで、よかった。じゃあね、リューネ。友達と仲良くね。
その場を立ち去るエルフ。
リューネ :ん・・・いまの・・・は・・・?
オリヴィア:うう・・・戻ってきたのね、現代に。
ノラ :・・・僕の「冒険」は・・・何だったんだ
オリヴィア:ノラ、大丈夫?
ノラ :もうわからない。自分で選んだ道のはずなのに、それすら「上」の用意した糸に操られているんじゃないかって・・・あそこでリューネが「歴史を変える」ことはあらかじめ決まっていたことなんじゃないか…?って・・・じゃあ僕の人生って、何なの?
オリヴィア:ノラ。
リューネ :ねぇ、ねぇ、ノラ
ノラ :…なに?
リューネ :ノラ、ありがとう。
ノラ :え・・・?
リューネ :ノラのおかげで、おかあさんに、あえた
リューネ :だから、ありがとう
リューネ :…なかないで?
ノラ :・・・何だよ、泣いてなんかないよ
オリヴィア:あらー?年下の女の子に慰められてるの?ノラくーん。
ノラ :うるせえっババァ!!
オリヴィア:はぁー???リューネ聞いたー?
オリヴィア:ババァだって!!アタシまだ26ですけど!?
オリヴィア:ノラぁ!もういっぺん言ってみなよ!ただじゃおかないから!!!!
ノラ :べーだ。
リューネ :うーんと、リューネはたぶん100さい、こえてるよ?もっと?300さいくらい?
ノラ :あっ
オリヴィア:そっか。そんなに長い間、お母さんを待っていたんだね。リューネ
リューネ :うん……
ノラ :(もし…「上」がリューネシア滅亡の瞬間の歴史を書き換える事を計画していたのだとしたら…その目的は、間違いなく「リューネ」だ。……だとしたら、リューネには必ず何らかの「役割」が与えられているはず。それがリューネにとっていいことなのか、悪いことなのか、分からないけど……僕には、彼女の「時を紡いだ」責任がある。)
ノラ :リューネ。
リューネ :なあに?
ノラ :…一緒に冒険しようよ、僕と。リヴィと。
リューネ :ぼうけん・・・?
ノラ :そう。この世界には・・・たくさんの場所や、歴史や、会ったことない人が沢山いる。
ノラ :僕はもっと冒険がしたい!それで、「上」もびっくりするくらいの大波乱を起こしてやるんだ!!
オリヴィア:あはは、威勢がいいのは良いことね。リューネはどう?私達と一緒に、来る?ここも素敵な場所だけど。
リューネ :いく!おかあさんはもうこないってわかったから。ノラ!オリヴィア!おててつなご!
オリヴィア:それじゃぁ決まりね!次は何処を目指そうかしら?
オリヴィア:走っちゃう?いいわよ、まだまだ私は若いからね〜!!
ノラ :根に持つなよ、リヴィ。
リューネ :ぼうけん!ぼうけん!びゅーーん!!!ごーごーごー!!!
―――エピローグ―――
エーカー :・・・そうだ。旅をしなさい、子供達。
エーカー :かつての姫やゴルドーがそうであったように…
エーカー :世界は広い。この広い世界のどこかに、たったひとつでも「護りたい」と思えるものが見つかったなら……それはほんとうに素敵なことなのだから。
切り出された古い石に腰掛け、泉に釣り糸を垂らしているエーカー。
エーカー :ぜ〜んぜん、ぼうずだね。
エーカー :もうこの泉、「待ち人の泉」じゃなくなっちゃったから、名前を変えないといけないね。
エーカー :……「釣り人の泉」なんてどうかな。
エーカー :お!でっかい野ベルベリー!
エーカー :う〜ん!おいしいねぇ〜!
終
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